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ゼロから始める起業資金繰り管理:事業計画実行後の資金の流れを把握し、資金ショートを防ぐ方法

Tags: 資金繰り, 起業資金, 事業計画, 資金管理, 運転資金

起業や独立を目指す際、事業計画を立て、必要な資金を調達することは非常に重要です。しかし、実際に事業を開始した後も、資金に関する不安はつきまとうものです。特に、事業計画通りに売上が上がらない、想定外の経費がかさんでしまうといった状況は珍しくありません。このような時に重要になるのが、「資金繰り管理」です。

この記事では、起業経験がない方でも理解できるよう、事業を開始した後の資金繰り管理の基本的な考え方、なぜ資金繰り管理が必要なのか、そして具体的な管理方法や資金ショートを防ぐための対策について、ステップバイステップで解説します。資金繰り管理をしっかりと行うことで、事業の安定化を図り、失敗のリスクを減らすことにつながります。

なぜ事業計画があっても資金繰り管理が必要なのか?

事業計画書で売上予測や費用計画を立て、資金計画を策定することは、事業を始める上で不可欠です。しかし、事業は常に変化します。市場の動向、競合の動き、顧客の反応、そして予期せぬトラブルなど、計画通りに進まない要素は数多く存在します。

資金繰り管理とは、単に銀行預金の残高を確認することではなく、将来にわたる現金の収入と支出の動きを予測し、把握し、管理することです。計画段階での資金計画が「こうなるはずだ」という予測に基づいているのに対し、資金繰り管理は「現在どうなっているか」「これからどうなりそうか」という現実より直近の予測に基づいています。

たとえ利益が出ていても、手元に現金がなければ、仕入れ代金や従業員の給与、家賃といった支払いができず、事業を継続できなくなります。これを「黒字倒産」と呼びます。資金繰り管理は、こうした事態を防ぐために、事業開始後に継続して行うべき非常に重要な活動なのです。

資金繰り管理の第一歩:現金の「見える化」

資金繰り管理を始める上で、最も基本的なステップは、現金の出入りを正確に把握し、「見える化」することです。そのために役立つのが「資金繰り表」です。

資金繰り表とは?

資金繰り表は、一定期間(通常は1ヶ月)における現金の収入と支出を項目別に記録・予測し、月末や期末の現金残高を確認するための表です。複雑な会計知識は必要ありません。基本的な項目を押さえることで、誰でも作成できます。

簡単な資金繰り表の作成・見方

まずはシンプルな資金繰り表を作成してみましょう。最低限、以下の項目があれば始めることができます。

| 項目 | 内訳例 | | :------------- | :------------------------------------- | | 前月末現金残高 | 前の月の終わりに手元にあった現金の合計 | | 収入の部 | | | 売上入金 | 商品・サービスの売上として実際に入金された金額 | | 借入金収入 | 金融機関などから借り入れたお金 | | その他収入 | 補助金・助成金、資産売却益など | | 支出の部 | | | 仕入支払 | 商品の仕入れ代金など | | 人件費 | 従業員の給与、社会保険料など | | 家賃 | 事務所や店舗の家賃 | | 広告宣伝費 | 広告費、ウェブサイト制作費など | | 支払利息 | 借入金に対する利息 | | 税金支払 | 消費税、所得税などの支払い | | その他支出 | 通信費、交通費、消耗品費など | | 支出合計 | 支出の部の合計 | | 本月末現金残高 | 前月末現金残高 + 収入合計 - 支出合計 |

この表を1ヶ月ごとに作成し、実際の数字を記録します。さらに、翌月以降の予測値も記入していきます。少なくとも3ヶ月先まで予測することで、将来的な資金不足の可能性を早期に察知できるようになります。

資金繰りを悪化させる主な要因

資金繰り表を作成・記録していく中で、資金繰りが苦しくなる兆候が見られることがあります。資金繰りを悪化させる主な要因を理解しておくことが重要です。

  1. 売上予測と実際のずれ: 事業計画段階での楽観的な売上予測に対し、実際の売上が伸び悩むことはよくあります。売上が入金されるまでの期間(回収サイト)が長い場合、手元にお金が入るのが遅れ、支払いに影響が出ます。
  2. 経費の増大: 想定していなかった経費が発生したり、計画よりも経費がかさんだりする場合、資金が予定よりも早く減少します。特に、固定費(家賃、人件費など)が高い場合は注意が必要です。
  3. 回収サイトと支払いサイトのずれ: 顧客からの売上金が入金されるまでの期間(回収サイト)が、仕入先や取引先への支払いを待ってもらう期間(支払いサイト)よりも長い場合、一時的に資金が不足しやすくなります。例えば、売上は月末締めの翌月末入金(回収サイト1ヶ月)だが、仕入れは月末締めの翌々月10日払い(支払いサイト1ヶ月強)といったケースです。
  4. 予期せぬ大きな出費: 機器の故障による修理費用、急な設備の購入、法改正への対応など、計画になかった大きな出費が発生すると、資金繰りが一気に悪化する可能性があります。

資金繰り改善のための具体的な対策

資金繰り表で資金不足の兆候を捉えたら、早めに対策を講じることが重要です。

  1. 売掛金の早期回収促進:
    • 請求書の送付を迅速に行う。
    • 入金期日を明確に伝え、必要であれば期日前の確認や督促を行う。
    • 支払い遅延が発生した場合、速やかに顧客に連絡を取り、理由を確認し、支払い計画を立てる。
  2. 買掛金・経費の支払い条件交渉:
    • 仕入先や取引先に対し、支払いサイトを長くしてもらうよう交渉する。
    • 経費項目を見直し、削減できるものはないか検討する(例:不要なサービスの解約、電気代の見直し)。
    • 単価交渉や、まとめ買いによる割引なども有効な場合があります。
  3. 在庫管理の最適化:
    • 過剰な在庫は資金を固定化させます。売れ筋商品の在庫を適切に保ちつつ、死蔵在庫は早めに処分を検討するなど、キャッシュフローを意識した在庫管理を行います。
  4. 運転資金の確保:
    • 事業を継続するために日常的に必要な資金(仕入代金、人件費、家賃などの支払い)を「運転資金」と呼びます。売上入金と支払いサイトのずれを埋めるためにも、一定額の運転資金を確保しておくことが資金繰りの安定につながります。創業融資などを検討する際にも、運転資金として必要な金額を計画に盛り込むことが一般的です。
  5. 必要に応じた追加資金調達の検討:
    • 資金繰り表で将来的な資金不足が予測される場合は、早めに新たな資金調達(追加融資、クラウドファンディング、補助金・助成金など)を検討し、準備を進めます。資金ショートが目前に迫ってからでは、対応が難しくなります。

定期的な資金繰りチェックの重要性

資金繰り表は一度作って終わりではありません。事業の状況に合わせて、最低でも月に一度は実際の収入・支出を記入し、今後の予測を見直しましょう。

資金繰り管理は、事業の健康診断のようなものです。定期的にチェックすることで、事業の状態を把握し、病気(資金ショート)を未然に防いだり、早期に治療(対策)を施したりすることができます。

資金繰り管理に役立つツール

資金繰り管理はExcelなどの表計算ソフトでも十分行うことができます。テンプレートをインターネットで探したり、ご自身の事業に合わせてカスタマイズしたりして活用できます。

また、最近ではクラウド会計ソフトの多くが資金繰りレポート機能を提供しています。日々の取引を入力しておけば、自動的に資金の出入りをグラフなどで可視化してくれるため、より手軽に資金繰りの状況を把握することができます。

まとめ

起業後の資金繰り管理は、事業を安定的に継続していくために欠かせない活動です。特に起業初期は計画通りに進まないことも多いため、定期的な資金のチェックと管理が重要になります。

まずは、資金繰り表を作成し、現金の出入りを「見える化」することから始めてください。そして、売上や経費、回収・支払いサイトのずれなど、資金繰りを悪化させる要因を理解し、資金不足の兆候が見られたら、早めに具体的な対策を講じることが大切です。

資金繰り管理を継続することで、事業の状況を正確に把握できるようになり、将来の予測精度も向上します。これは、資金調達が必要になった際の計画策定や、金融機関とのコミュニケーションにおいても、あなたの事業への信頼を高めることにつながります。

もし、資金繰り管理の方法が分からない、資金繰りに不安があるといった場合は、一人で抱え込まず、税理士や商工会議所、地域ごとの起業支援窓口など、専門家や支援機関に相談することも検討してみてください。

資金繰り管理は、事業を「続ける力」を養うことに直結します。難しく考えすぎず、まずはできることから一歩ずつ取り組んでいきましょう。