初めての創業融資:申請から実行までの具体的な流れと準備
起業や独立を目指す際、多くの人が直面するのが資金調達という課題です。「どこから資金を集めれば良いのか」「具体的に何をすれば良いのか」と悩む方もいらっしゃるでしょう。
自己資金だけで事業を開始できれば理想的ですが、多くの場合、外部からの資金調達が必要になります。その中でも、起業経験がない方にとって比較的利用しやすく、最初に検討されることが多いのが「創業融資」です。
本記事では、初めて創業融資を検討する方が、申請から資金の受け取りまでをスムーズに進められるよう、具体的なステップと各段階での準備について詳しく解説します。
創業融資とは?なぜ初心者におすすめなのか
創業融資とは、新たに事業を開始する人や、事業を開始して間もない人を対象とした融資制度です。主な提供機関としては、日本政策金融公庫や、各自治体と金融機関が連携する制度融資などがあります。
創業融資が起業初心者におすすめされる理由としては、以下のような点が挙げられます。
- 実績がなくても利用しやすい: 通常の事業融資は、過去の業績や実績が審査で重要視されますが、創業融資は将来性や事業計画の実行可能性などが評価の中心となります。
- 低金利で利用できる場合が多い: 公的な性格を持つ機関からの融資であるため、民間の金融機関と比較して低金利で借り入れできるケースが多く見られます。
- 返済期間を長く設定できることがある: 資金繰りの負担を軽減するため、比較的長い返済期間を設定できる場合があります。
- 自己資金の〇倍までといった基準がある: 一定の自己資金を用意することで、それを上回る金額の融資を受けられる可能性があります。
創業融資申請の全体像:申し込みから実行までの主なステップ
創業融資を申請してから実際に資金が振り込まれるまでには、いくつかの段階があります。全体の流れを把握しておくことで、計画的に準備を進めることができます。一般的な流れは以下のようになります。
- 情報収集と相談: どのような創業融資制度があるか、自分の事業内容や状況に適しているかなどを調べ、公的機関や金融機関に相談します。
- 事業計画書の作成: 融資審査で最も重要となる事業計画書を作成します。事業の概要、資金計画、返済計画などを具体的に記述します。
- 必要書類の準備と申し込み: 事業計画書を含め、申請に必要な書類一式を揃えて申し込みを行います。
- 面談: 金融機関の担当者と面談を行い、事業計画や申請内容について説明します。
- 審査: 提出書類と面談の内容に基づき、融資の可否や条件が審査されます。
- 契約手続き: 審査を通過した場合、金銭消費貸借契約などの契約手続きを行います。
- 融資実行: 契約に基づき、指定の口座に資金が振り込まれます。
これらのステップは、制度や金融機関によって多少異なる場合がありますが、大まかな流れとして参考にしてください。
各ステップで成功確率を高めるための具体的な準備
ステップ1:情報収集と相談
まずは、どのような創業融資制度があるかを調べましょう。特に、日本政策金融公庫の「新規開業資金」や、自治体の「創業支援融資」などが一般的です。
- 日本政策金融公庫: 国の機関であり、全国に支店があります。創業融資制度が充実しており、多くの起業家が利用しています。ウェブサイトで制度内容を確認できます。
- 自治体・制度融資: 各都道府県や市区町村が、地元の金融機関と連携して提供する融資制度です。金利の一部を自治体が負担するなど、有利な条件の場合があります。お住まいの自治体のウェブサイトなどで情報を確認しましょう。
制度の概要を理解したら、実際に金融機関や公的機関の窓口に相談に行くことをお勧めします。担当者に事業の構想を伝え、どの制度が利用できそうか、どのような準備が必要かなどのアドバイスをもらうことができます。この段階から丁寧に対応することで、その後の手続きもスムーズに進みやすくなります。
ステップ2:事業計画書の作成
事業計画書は、あなたの事業の羅針盤であり、金融機関が融資の可否を判断する上で最も重要な書類です。「なぜこの事業を始めるのか」「どのような商品・サービスを提供するのか」「どのように収益を上げるのか」「どれくらいの資金が必要で、どのように使うのか」「どのように返済していくのか」などを分かりやすく、具体的に記述する必要があります。
事業計画書の作成には、以下の要素を盛り込むことが一般的です。
- 創業の動機・目的: なぜこの事業を始めたいのか、どのような社会的な意義があるのかなどを具体的に説明します。
- 事業内容: 提供する商品やサービスの詳細、ターゲット顧客、競合との差別化ポイントなどを明確に記述します。
- 経営者の略歴・経験: これまでの職務経験やスキルが、どのように事業に活かせるかを説明します。特に、サービス業での15年の経験は大きな強みとなる可能性があります。
- 市場環境・マーケティング戦略: 市場規模、ターゲット顧客のニーズ、集客方法、販売戦略などを記述します。
- 資金計画: 事業開始までに必要な資金の内訳(設備費、運転資金など)、調達方法(自己資金、融資希望額)、資金の使い道を具体的に示します。
- 収支計画・返済計画: 売上予測、経費の見込み、利益計画、融資の返済計画などを現実的な数字で示します。楽観的すぎず、根拠に基づいた計画を立てることが重要です。
初めて事業計画書を作成する場合、どのように書けば良いか迷うかもしれません。日本政策金融公庫のウェブサイトには、創業計画書のひな形や記載例が公開されていますので、参考にしながら作成を進めることができます。また、商工会議所や自治体の創業支援窓口でも、事業計画書の作成に関する相談に乗ってもらえる場合があります。
ステップ3:必要書類の準備と申し込み
事業計画書が完成したら、申請に必要なその他の書類を準備します。一般的に必要となる書類は以下の通りです。
- 借入申込書
- 創業計画書
- 自己資金を確認できる資料(預金通帳の写しなど)
- 見積書(設備資金を借り入れる場合など)
- 個人の本人確認書類、印鑑証明書など
この他にも、事業の形態(法人か個人か)や申請する制度によって必要な書類が異なります。事前に金融機関や公的機関に確認し、不足がないように揃えましょう。
書類が全て揃ったら、金融機関や公的機関の窓口に提出して申し込みを行います。
ステップ4:面談
書類提出後、担当者との面談が行われます。面談の目的は、提出された事業計画書の詳細を確認し、申請者本人の事業への意欲、熱意、そして計画の実現可能性を見極めることです。
面談では、事業内容、市場の見通し、顧客獲得の方法、売上や経費の見込み、資金の使い道、返済の見通しなどについて質問されます。
面談で良い印象を与えるためには、以下の点を意識しましょう。
- 事業計画を十分に理解しておく: 自分の言葉で事業内容や計画を説明できるよう、事業計画書の内容をしっかり頭に入れておきます。
- 熱意と誠実さを示す: 事業への強い思いや熱意を伝えつつ、質問には誠実に答えましょう。
- 具体的な数字を説明できる: 売上や経費の見込みについて、どのような根拠に基づいているかを説明できるように準備しておきます。
- 質問には正直に答える: 分からないことや不確かな点は正直に伝え、曖昧な回答は避けます。
- 清潔感のある服装で臨む: 面談はビジネスの場ですので、TPOに合わせた服装を心がけましょう。
面談は緊張するものですが、あなたの事業への思いや準備の度合いを直接伝えられる貴重な機会です。自信を持って臨みましょう。
ステップ5:審査
面談と提出書類に基づいて、金融機関や公的機関による審査が行われます。審査では、事業計画の実現可能性、資金使途の妥当性、返済能力、申請者の信用状況などが総合的に評価されます。
審査には一定の期間がかかります。結果が出るまで不安に感じるかもしれませんが、この期間を利用して、事業開始に向けた準備をさらに進めることができます。
ステップ6・7:契約手続きと融資実行
審査を通過した場合、融資条件(金利、返済期間、返済方法など)が提示され、問題がなければ金銭消費貸借契約などの契約手続きを行います。契約には実印や印鑑証明書などが必要になりますので、事前に確認しておきましょう。
契約手続きが完了すると、指定した銀行口座に融資金額が振り込まれます。これで資金調達の第一段階が完了です。
創業融資を成功させるためのポイントと注意点
創業融資の申請を成功させるためには、いくつかの重要なポイントがあります。
- 自己資金をしっかり用意する: 創業融資では、自己資金の有無や金額が重要な評価項目となります。自己資金が多いほど、事業への本気度が高いと判断されやすく、融資を受けられる可能性が高まります。計画的に自己資金を貯めておくことが重要です。
- 事業計画は具体的に、そして現実的に: 曖昧な計画や楽観的すぎる数字では、信頼を得ることはできません。市場調査に基づいた売上予測や、詳細な経費計算など、根拠に基づいた具体的な計画を立てましょう。
- 資金の使い道を明確にする: 借り入れた資金を何に使うのか(設備投資、運転資金など)を具体的に示す必要があります。資金使途が不明確だと、審査で不利になります。
- 専門家や支援機関を活用する: 商工会議所、税理士、認定支援機関などは、事業計画書の作成や融資申請について専門的なアドバイスを提供してくれます。一人で抱え込まず、積極的に活用しましょう。
- 複数の選択肢を検討する: 創業融資以外にも、補助金・助成金、クラウドファンディングなど、様々な資金調達方法があります。自分の事業に最も適した方法を検討し、必要であれば組み合わせて利用することも可能です。
また、融資はあくまで「借金」であることを忘れてはいけません。返済義務が伴いますので、返済計画をしっかりと立て、無理のない範囲で借り入れることが大切です。
まとめ
初めての起業における資金調達は、不安を感じるかもしれません。しかし、創業融資は起業初心者にとって心強い選択肢の一つです。
情報収集から始まり、最も重要な事業計画書の作成、そして面談、審査を経て融資実行に至るまで、各ステップで適切な準備を行うことが成功の鍵となります。特に、事業計画書の作成には時間をかけ、自分の事業への思いや具体的な計画をしっかりと盛り込みましょう。
不安な点や疑問点があれば、一人で悩まず、金融機関の担当者や専門家、公的機関の窓口に相談することをお勧めします。計画的に、そして誠実に取り組むことで、創業融資の成功に一歩近づくことができるはずです。あなたの起業の第一歩を、創業融資という形で後押しできることを願っています。