起業初心者が必ず知っておきたい資金繰り計画の立て方:ステップと重要ポイント
起業・独立を目指す皆様にとって、事業のスタート資金を集めることと同様に、事業を継続していくための「資金繰り」を理解し、計画を立てることは非常に重要です。資金繰りがうまくいかないと、たとえ売上が上がっていても資金が不足し、事業が立ち行かなくなる可能性があります。
この記事では、起業経験がなく資金繰りの具体的な方法が分からないという初心者の方に向けて、資金繰り計画の基本的な考え方から、具体的なステップ、そして計画を立てる上で押さえるべき重要ポイントまでを分かりやすく解説します。
資金繰り計画とは何か
資金繰り計画とは、一定期間(例えば1年間)において、事業でいつ、いくらのお金が入ってきて(収入)、いつ、いくらのお金が出ていくか(支出)を予測し、資金が不足しないように管理するための計画です。
よく混同されがちな「資金調達計画」は、事業開始時や拡大時に必要となるまとまった資金をどう集めるかという計画です。一方、「資金繰り計画」は、日々の運営や月々のやり取りの中で、お金の流れを管理し、事業を継続させていくための計画です。たとえ大きな資金調達に成功しても、日々の資金繰りがずさんだと、あっという間に資金が底をつくこともあります。
資金繰り計画を立てることで、将来的な資金不足のリスクを早期に発見し、事前に対策を講じることが可能になります。これは、事業を安定させ、成長させていくための羅針盤のようなものです。
なぜ起業初心者に資金繰り計画が重要なのか
起業初期は、売上が安定しない、予想外の出費が発生しやすいなど、資金の流れが不規則になりがちです。また、売上が発生しても、それが実際にお金として入金されるまでにはタイムラグがあります(売掛金の回収)。逆に、仕入れや経費の支払いは現金や比較的短いサイクルで行われることが多いです。この「入ってくるお金」と「出ていくお金」のタイミングのズレによって、一時的に資金が不足する「資金ショート」が発生するリスクがあります。
起業初心者は、このお金のタイムラグや、事業運営にかかる具体的な経費を見積もることに慣れていません。そのため、しっかりとした資金繰り計画がないと、資金ショートの危機に気づくのが遅れてしまい、事業継続が困難になってしまうことがあるのです。
資金繰り計画は、初めての事業経営における不安を減らし、現実的な事業運営の見通しを立てる上で、非常に心強いツールとなります。
資金繰り計画を立てる基本的な考え方
資金繰り計画の基本は、以下の3つの要素を把握することです。
- 収入: 事業によって得られるお金の流れ。売上金、融資の実行、補助金の入金などがあります。
- 支出: 事業によって出ていくお金の流れ。仕入れ費用、人件費、家賃、光熱費、広告費、借入金の返済などがあります。
- 資金残高: ある時点での手元にあるお金の額。計画期間を通して、この資金残高がマイナスにならないように管理します。
資金繰り計画では、これらの収入と支出を、月ごとなど一定の期間で区切り、それぞれの期間の収入合計から支出合計を差し引き、期首の資金残高に加減することで、期末の資金残高を予測していきます。
特に重要なのは、売上が発生したタイミングではなく、実際にお金が口座に入金されたタイミングを収入として計上すること、そして経費を支払ったタイミングを支出として計上することです。
資金繰り計画の立て方:ステップバイステップ
ここでは、資金繰り計画を立てる具体的なステップをご紹介します。
ステップ1:売上・収入の見込みを立てる
まずは、今後予測される売上やその他の収入を、月ごとに具体的に見積もります。商品やサービスの販売単価、販売数量、提供件数などを想定し、月間の合計売上額を計算します。
- ポイント: 売上は発生主義(契約や引き渡し時点)ではなく、入金ベースで考えます。例えば、月末締めの翌月末入金であれば、今月の売上は翌月の収入として計上します。初めての予測は難しいかもしれませんが、市場調査や競合他社の情報、過去の経験などを参考に、できるだけ現実的な数字を設定することが重要です。
ステップ2:経費・支出の見込みを立てる
次に、事業運営にかかる様々な経費や支出を洗い出し、月ごとに見積もります。経費は大きく分けて「固定費」と「変動費」があります。
- 固定費: 売上に関わらず毎月ほぼ一定額発生する経費。例:家賃、正社員の人件費、リース料など。
- 変動費: 売上や生産量に応じて増減する経費。例:仕入れ費用、外注費、発送費など。
- 一時的な支出: 設備投資、税金の支払い、借入金の返済など、毎月ではないが特定の月に発生する大きな支出。
これらの支出を漏れなくリストアップし、発生が予測される月に計上します。
- ポイント: 実際の支払が発生するタイミングで計上します。また、消費税の支払いなど、忘れがちな支出も計上しておきましょう。
ステップ3:資金の流入と流出を整理する(資金繰り表の作成)
ステップ1で見積もった「入金ベースの収入」と、ステップ2で見積もった「支払ベースの支出」を、月ごとに並べて整理します。この表を作成することで、各月の資金の流れが一目でわかるようになります。これが簡易的な「資金繰り表」となります。
一般的な資金繰り表の項目例: * 前月からの繰越資金(スタート月は自己資金など初期の資金) * 売上入金 * その他の収入(融資実行、補助金入金など) * 収入合計 * 仕入支払 * 経費支払(人件費、家賃、広告費、水道光熱費、通信費、消耗品費など細かく分類) * 借入金返済 * 税金支払 * その他の支出 * 支出合計 * 差引資金収支(収入合計 - 支出合計) * 次月への繰越資金(前月からの繰越資金 + 差引資金収支)
この表を、まずは半年から1年程度の期間で作成してみましょう。
ステップ4:月ごとの資金残高を予測する
ステップ3で作成した資金繰り表の「次月への繰越資金」が、各月の期末資金残高の予測となります。この予測残高がマイナスになっていないかを確認します。
ステ5:資金不足に陥る時期を特定し、対策を検討する
もし、予測した資金残高がマイナスになる月がある、あるいは十分な手元資金が確保できない月がある場合は、その時期を特定し、資金不足を回避するための対策を検討します。
対策の例: * 収入を増やす: 新規顧客開拓、単価の見直し、早期入金の交渉など * 支出を減らす: 無駄な経費の削減、より安価な仕入先の検討など * 資金調達: 追加融資、補助金・助成金の活用、クラウドファンディングの実施など * 入金・支払サイトの見直し: 顧客への請求タイミングを早める、仕入先との支払条件交渉など
これらの対策を資金繰り計画に反映させ、再び予測残高を確認する、という作業を繰り返し行います。
資金繰り計画を立てる上での重要ポイント・注意点
資金繰り計画は一度立てたら終わりではありません。また、精度を高めるためにはいくつかのポイントがあります。
- 現実的な予測を立てる: optimistic(楽観的)すぎず、かといってpessimistic(悲観的)すぎない、できるだけ根拠に基づいた現実的な数字を積み上げることが重要です。特に起業初期の売上予測は難しいため、少し保守的に見積もることも有効です。
- 資金ショートのサインを見逃さない: 資金繰り計画を定期的に見直し、計画と実績に大きなズレがないかを確認することが大切です。計画に対して資金残高が減ってきている場合は、早期に原因を特定し、対策を講じる必要があります。
- 定期的に見直す: 事業は常に変化します。計画当初の見込みと実績は必ずずれてきますので、少なくとも月に一度は資金繰り計画を見直し、必要に応じて修正しましょう。これにより、常に最新の資金繰り状況を把握できます。
- 不測の事態に備える(予備資金): 予想外の支出や売上の減少に備え、数ヶ月分の固定費に相当する額など、ある程度の予備資金を確保しておくことが望ましいです。資金繰り計画にも、この予備資金を考慮に入れておくと安心です。
- 専門家の活用を検討する: 税理士や中小企業診断士など、資金繰りや経営計画の専門家は、より精度の高い計画策定や、効果的な資金繰り改善策についてのアドバイスをしてくれます。一人で抱え込まず、必要に応じて専門家のサポートを受けることも有効な手段です。
まとめ
資金繰り計画は、起業した事業を継続・成長させていくための土台となるものです。初めての計画策定は難しく感じるかもしれませんが、まずは収入と支出を月ごとに洗い出し、資金の流れを「見える化」することから始めてみてください。
資金繰り計画を立て、定期的に見直す習慣をつけることで、資金不足のリスクを減らし、落ち着いて事業運営に取り組むことができるようになります。また、金融機関からの融資を受ける際にも、しっかりとした資金繰り計画を提示できることは、信頼を得る上で非常に有利に働きます。
この記事でご紹介したステップとポイントを参考に、ぜひ皆様の事業の資金繰り計画を立ててみてください。計画は一度立てたら終わりではなく、事業の成長と共に見直し、改善していくものです。地道な作業ですが、皆様の事業の成功に必ず繋がるはずです。