ゼロからわかる!集めた起業資金の効果的な使い道計画と資金管理の進め方
起業を目指し、必要な資金を調達できた皆様、おめでとうございます。資金調達は、事業を始めるための大きなステップであり、その努力が実った証です。しかし、資金を無事に集められたとしても、そこで終わりではありません。むしろ、ここからが本格的なスタートラインと言えます。
集めた資金をどのように使い、どのように管理していくかが、事業を成功に導く上で非常に重要になります。計画なく資金を使ってしまうと、想定外の早期に資金が底をついてしまったり、事業計画通りに進まなくなったりするリスクが高まります。
この記事では、起業初心者の方に向けて、集めた資金を効果的に使い、事業を安定させるための資金の使い道計画と、日々の資金管理の具体的な進め方をステップバイステップで解説します。資金への不安を軽減し、事業を軌道に乗せるための土台を作りましょう。
なぜ「資金の使い道計画」と「資金管理」が重要なのか
集めた資金は、あなたの事業を成長させるための燃料のようなものです。この燃料をどのように使うか、そして日々の残量をどう管理するかが、事業の持続可能性を左右します。
- 資金は有限な資源である: どんなに多くの資金を調達できたとしても、無限にあるわけではありません。計画的に使わなければ、あっという間に枯渇してしまいます。
- 事業計画達成の鍵: 資金の使い道は、作成した事業計画と密接に関わっています。計画通りに資金を投じることで、目標とするサービス提供や売上目標の達成に繋がります。
- 資金ショートのリスク回避: 収入より支出が多い状態が続くと、資金は減っていきます。計画的に資金を使い、管理することで、資金が突然底をつく「資金ショート」という事態を防ぐことができます。
- 金融機関からの信頼維持: 特に融資を受けた場合、資金の使途(何に資金を使ったか)は金融機関からの評価に関わります。計画通りに、そして事業の成長に繋がるように資金を使うことは、今後の追加融資などの可能性にも影響します。
集めた資金の具体的な使い道計画を立てるステップ
資金調達が成功したら、以下のステップで具体的な使い道計画を立てましょう。
ステップ1:事業計画と必要な費用を再確認する
資金調達の過程で、事業計画書を作成し、必要な資金を見積もったはずです。まずは、その事業計画書を改めて見直し、以下の点を再確認します。
- 初期費用: 事業開始までに一度だけかかる費用(事務所の保証金、内外装工事、設備購入、許認可取得費用など)。
- 運転資金: 事業を継続していくために毎月かかる費用(人件費、家賃、仕入費用、広告宣伝費、水道光熱費、通信費など)。特に、売上が入ってくるまでの数ヶ月間の運転資金は非常に重要です。
見積もった費用が、実際に調達できた資金総額と一致しているか確認しましょう。もし調達額が見積もりより少ない場合は、どこかの費用を削減する必要が出てきます。
ステップ2:調達資金の内訳とそれぞれの充当先を明確にする
調達できた資金は、自己資金、親族からの借入、日本政策金融公庫からの融資、銀行からの融資、補助金・助成金、クラウドファンディングなど、複数の方法の組み合わせかもしれません。それぞれの資金には性質や使い道に関する制約がある場合があります。
- 融資資金: 金融機関から受けた融資資金は、申請時に提出した事業計画書や資金繰り計画書に記載した使途に沿って使うのが原則です。特に「設備資金」として借りた資金は、必ず設備投資に充てる必要があります。運転資金として借りた場合も、特定の費目(人件費、仕入費など)に限定されることがあります。金融機関との間で取り交わした契約内容を必ず確認しましょう。
- 補助金・助成金: 補助金や助成金は、特定の目的(設備導入、研究開発、販路開拓など)のために支給されることがほとんどです。支給要件や交付決定通知書に記載された対象経費以外には使えません。証拠書類(領収書など)の保管も義務付けられています。
- 自己資金など: 自己資金や親族からの借入など、使途に制約がない資金は、比較的自由に使うことができます。運転資金の不足分や、融資や補助金の対象にならない経費に充当できます。
このように、資金の種類ごとに「何に使えるか」「使ってはいけないか」を整理し、どの資金をどの費用に充当するかを明確にすることで、資金を計画通りに使うための基礎ができます。
ステップ3:費目ごとに具体的な予算を割り当てる
ステップ2で資金の充当先を決めたら、さらに詳細に、各費目(人件費、家賃、広告費、仕入費など)にいくら割り当てるのか、具体的な予算額を決めます。
例えば、広告宣伝費として総額30万円を充当すると決めた場合、その内訳を「ウェブ広告に20万円」「チラシ作成・配布に10万円」といった具合に具体的にします。
すべての費用項目に対して、可能な限り詳細な予算を割り当てていきましょう。このとき、事業計画で想定した売上目標を達成するために、それぞれの費用がどのように貢献するのかを意識することが重要です。費用対効果の視点も取り入れると、より質の高い予算配分になります。
ステップ4:資金支出のスケジュールを作成する
予算が決まったら、最後に「いつ」「いくら」「何に」資金を使うのか、具体的な支出のスケジュール(資金支出計画)を作成します。
特に事業開始当初は、収入がない、あるいは少ない一方で、様々な支払いが発生します。家賃の支払い日、給与の支払い日、仕入代金の支払いサイト(締め日から支払いまでの期間)などを把握し、月ごとの資金の流出額を具体的に予測します。
このスケジュールを作成することで、将来的にいつ頃資金が厳しくなりそうか、事前に予測できるようになります。
事業を安定させるための資金管理の基本
計画を立てるだけでなく、実際に事業が始まってからの日々の資金管理も非常に重要です。
日々の資金の出入りを記録する
売上金の入金、経費の支払いなど、資金の動きがあった際は、必ず記録を残します。
- 現金出納帳: 現金の出し入れを記録します。
- 預金通帳: 銀行口座の入出金履歴を確認します。
- クラウド会計ソフト: 近年はクラウド会計ソフトを利用することで、銀行口座やクレジットカードのデータと連携させ、自動で取引を記録・分類することが可能です。簿記の知識がなくても使いやすいものが多いです。
日々の記録を怠ると、現在の正確な手元資金が把握できなくなり、資金繰りの予測も不可能になります。
売上と費用の発生タイミングを把握する
資金管理において、売上や費用が発生したタイミング(発生主義)だけでなく、実際にお金が入ってくる・出ていくタイミング(現金主義)を把握することが重要です。
- 入金サイト: 売上が発生してから実際に入金されるまでの期間。例えば、月末締め翌月末払いなら入金サイトは1ヶ月です。
- 支払サイト: 費用が発生してから実際に支払いを行うまでの期間。例えば、月末締め翌々月10日払いなら支払サイトは約1ヶ月半です。
売上は後から入ってくるのに、費用は先に支払わなければならない、というタイムラグによって、事業が黒字でも資金が足りなくなる「黒字倒産」という状況が起こり得ます。
定期的な資金繰り表の作成と確認
資金繰り表とは、将来にわたって、いつ、どれだけの資金が入ってきて、いつ、どれだけの資金が出ていくかを予測し、資金の過不足を把握するための表です。
最低でも月に一度は資金繰り表を作成し、今後数ヶ月先の資金繰りの見通しを確認しましょう。資金が不足しそうな時期が予測できれば、それに応じた対策(追加融資の検討、費用削減、売上入金の早期化交渉など)を事前に打つことができます。
資金繰り表の作成は難しそうに感じるかもしれませんが、エクセルなどの表計算ソフトでも作成できますし、多くの会計ソフトにも資金繰り表作成機能がついています。まずは簡単な形式から始めてみましょう。
予実管理の重要性
予実管理とは、事前に立てた予算(予定)と、実際の結果(実績)を比較し、その差異を分析・管理することです。
資金の使い道計画で立てた予算に対して、実際の支出はどうだったのかを定期的に比較します。もし計画より支出が大幅に多い場合、何が原因なのかを分析し、今後の対策を立てる必要があります。売上についても同様に、計画通りに進んでいるかを確認し、予測とのズレが資金繰りにどう影響するかを把握します。
予実管理を行うことで、計画の甘さや想定外の問題を早期に発見し、軌道修正を図ることができます。
資金管理で失敗しないためのポイントと注意点
計画はあくまで予測と捉え、定期的に見直す
最初に立てた資金の使い道計画や資金繰り計画は、あくまで予測に基づいています。事業を進める中で、計画通りにいかないことは多々あります。売上が想定より伸びない、予期せぬ費用が発生するなど、様々な要因で計画とのズレが生じます。
重要なのは、計画とのズレを早期に発見し、その原因を分析し、計画を現実に応じて見直すことです。固定観念にとらわれず、柔軟に計画を修正していく姿勢が資金ショートを防ぎます。
必ず予備費を確保しておく
どんなに綿密な計画を立てても、想定外の事態は起こり得ます。機器の故障、急な修繕費、予期せぬ販促機会など、計画になかった出費が発生する可能性があります。
そのため、集めた資金の一部は「予備費」として確保しておくことを強く推奨します。金額としては、月間の運転資金の1~3ヶ月分程度を目安にすると良いでしょう。この予備費があることで、いざという時に慌てずに済みます。
個人の支出と事業の支出を明確に分ける
事業用の資金と、個人的な生活費などを混同して管理することは、資金繰りの状況を不透明にし、計画的な資金活用を妨げます。
事業用の銀行口座を開設し、事業に関する全ての入出金はその口座を通じて行うように徹底しましょう。事業主自身の給与(役員報酬など)を設定し、そこから生活費を賄うようにすれば、資金の公私混同を防ぐことができます。
専門家(税理士など)の活用も検討する
資金計画や日々の資金管理は、起業初心者にとっては戸惑うことも多いかもしれません。特に、簿記や会計の知識がない場合はなおさらです。
必要に応じて、税理士などの専門家のサポートを検討しましょう。専門家は、適切な記帳方法、資金繰り表の作成支援、税務申告の代行だけでなく、経営状況に基づいた資金に関するアドバイスも提供してくれます。初期費用はかかりますが、適切なアドバイスを受けることで、将来的な大きな失敗を防ぐことに繋がります。
まとめ
起業に必要な資金を調達できたことは素晴らしい成果です。しかし、事業を継続し、成長させていくためには、集めた資金をいかに計画的に使い、正確に管理していくかが非常に重要になります。
資金の使い道計画を立て、日々の資金の出入りを記録し、定期的に資金繰りの状況を確認すること。これらを丁寧に行うことで、資金ショートのリスクを減らし、資金に関する不安を和らげることができます。
計画は一度立てて終わりではなく、事業の状況に応じて常に見直しが必要です。また、予備費の確保や公私混同の回避、必要に応じた専門家の活用も、安定した資金管理には欠かせません。
資金に関する計画と管理は、事業の土台を築くための大切なプロセスです。この土台をしっかり作り上げることで、あなたの事業はより安定し、成功への道を力強く歩んでいけるでしょう。
不安を感じながらも、一つずつステップを踏んでいくことが大切です。この記事が、皆様の資金に関する計画と管理を進める上での一助となれば幸いです。