事業計画書の書き出し方:あなたのアイデアを形にし、必要な資金を見積もる最初の一歩
はじめに
起業や独立を目指す上で、「事業計画書」の作成と「資金調達」は避けて通れない重要なステップです。しかし、初めての方にとっては、「何から手をつければ良いのか」「難しそう」「失敗したらどうしよう」といった不安を感じることも少なくないでしょう。特に事業計画書は、白紙の紙を前に「一体何を書けばいいのだろう」と立ち止まってしまう方もいらっしゃいます。
この記事では、初めて事業計画書を作成する方が、あなたの頭の中にあるアイデアを具体的な形にし、事業を開始するために必要な「資金」を見積もるための、最初の具体的なステップを解説します。完璧な事業計画書を一度に完成させるのではなく、まずは最初の「一歩」を踏み出すことに焦点を当てます。この最初のステップを踏み出すことで、漠然としたアイデアが整理され、必要な資金が見えてくるはずです。
事業計画書の「はじめの一歩」とは?
事業計画書は、あなたの事業のアイデアや戦略、そしてどのように利益を上げていくかを具体的に記述したものです。資金調達の場面で金融機関や投資家に見せるだけでなく、あなた自身が事業の方向性を明確にし、課題や必要なことを見つけるための重要なツールでもあります。
初めて事業計画書を書く際に最も重要なのは、「完璧でなくても良い」と考えることです。最初は草案で構いません。あなたの頭の中にある考えやアイデアを、一つずつ言語化し、整理していくことから始めましょう。この「はじめの一歩」では、特に以下の3つの点を具体的に考え、書き出してみることをおすすめします。
ステップ1:事業コンセプトを明確にする
事業コンセプトとは、「あなたの事業が、誰に対して、どのような価値を、どのように提供するのか」という事業の根幹となる考え方です。ここがブレていると、その後の計画もあいまいになってしまいます。
具体的に考え、書き出すべきポイントは以下の通りです。
- 何をやる事業なのか?
- どのような商品やサービスを提供したいですか?
- それは顧客のどのような課題を解決するものですか?
- あなたの経験やスキル、情熱はどのように活かされますか?
- 誰に提供するのか?
- あなたの顧客となるのはどのような人たちですか? (年齢、性別、職業、ライフスタイル、悩みなど、具体的にイメージできると良いでしょう。)
- その顧客はなぜあなたのサービスを必要とするのでしょうか?
- どのように提供するのか?
- 顧客にどのように商品やサービスを届けますか?(店舗販売、オンライン販売、訪問サービス、コンサルティングなど)
- 価格設定はどうしますか?
- 事業を通じて顧客にどのような体験を提供したいですか?
これらの問いに対する答えを、箇条書きや簡単な文章で良いので、まずは書き出してみてください。専門用語を並べる必要はありません。あなたの言葉で、事業の核となる考え方を明確にすることが重要です。
ステップ2:提供する商品・サービスの具体的な内容を考える
ステップ1で事業コンセプトが明確になったら、次はそのコンセプトに基づき、実際に提供する商品やサービスについて、もう少し具体的に考えてみましょう。
- 商品・サービスの詳細:
- 提供する商品やサービスは具体的にどのようなものですか?(例:オンライン英会話レッスン、手作りパンの販売、ウェブサイト制作代行など)
- その特徴や、競合にはない独自の強みは何ですか?
- 顧客はどのような形でそれを受け取りますか?(物理的なモノ、データ、体験、情報など)
- 提供に必要な要素:
- その商品・サービスを提供するために、具体的にどのような「もの」や「こと」が必要になりますか?(例:仕入れる材料、使用する道具や設備、必要なソフトウェア、専門的な知識、働く人など)
このステップでは、アイデアをより具体的な形にする作業です。どのようなサービスを、どんな品質で、どのくらいの価格で提供するのかなど、できるだけ詳細にイメージし、記述してみましょう。特に「提供に必要な要素」をリストアップすることは、次のステップである資金の見積もりに直結するため、時間をかけて考える価値があります。
ステップ3:事業開始に必要な「初期費用」を洗い出す
ステップ1とステップ2で、あなたがどのような事業を、どのように行うかが見えてきました。次に、その事業を始めるために、具体的に「いくら必要か」を考え始めます。まずは事業を立ち上げるために一度だけかかる費用、すなわち「初期費用」を洗い出してみましょう。
ステップ2でリストアップした「提供に必要な要素」をもとに、具体的に費用が発生する項目を洗い出します。以下に、一般的な初期費用の項目例を挙げますが、あなたの事業に合わせて必要なものをリストアップしてください。
- 物件取得費: 店舗や事務所の保証金、礼金、仲介手数料など
- 内外装工事費: 物件のリフォームや内装、外装工事にかかる費用
- 設備費: パソコン、プリンター、専用機器、家具、空調設備など
- 什器備品費: 陳列棚、調理器具、デスク、椅子など
- システム開発費: ウェブサイト、予約システム、販売管理システムなどの構築費用
- 仕入れ費: 販売する商品の初回仕入れ費用
- 広告宣伝費: 開業時のチラシ作成、ウェブ広告、看板設置費用など
- 許認可・登録費用: 事業に必要な許認可取得や登記にかかる費用
- 運転資金の予備: 開業当初は売上が不安定な場合があるため、数ヶ月分の家賃や人件費などを準備しておく(これは厳密には運転資金ですが、初期にまとまった資金が必要な項目として含めることもあります)
- その他: 専門家への相談料(税理士、弁護士など)、通信費の初期工事費など
これらの項目について、インターネット検索や専門業者への見積もり依頼などを通じて、おおよそかかる金額を調べてみましょう。最初は概算で構いません。重要なのは、「何に」「いくらくらい」かかるかを具体的に把握しようとすることです。
洗い出した初期費用が「必要な資金」の出発点
ステップ3で洗い出した初期費用の合計が、あなたの事業を開始するために最低限必要となる資金の、一つの目安となります。事業計画書では、「必要な資金」という項目でこれらの費用を具体的に示すことが一般的です。
あなたが自分で用意できる資金(自己資金)と、この初期費用の合計との差額が、外部からの資金調達(融資、補助金、クラウドファンディングなど)を検討する必要が出てくる金額となります。
ただし、これだけで事業が回るわけではありません。事業を開始した後も、毎月継続的に発生する費用(家賃、人件費、仕入れ費用、光熱費、通信費など)である「運転資金」も考慮に入れる必要があります。特に開業当初は売上がすぐには立たないことも想定し、数ヶ月分の運転資金も合わせて準備しておくことが資金ショートを防ぐ上で非常に重要です。運転資金については、今後の事業計画作成の中で、売上予測と費用予測を立てる中でより詳細に計算していきます。
次のステップへ:事業計画の続きと資金計画の連動
この記事で解説した3つのステップは、事業計画書全体のほんの一部です。しかし、事業のコンセプトを固め、具体的な内容を考え、それにかかる初期費用を洗い出すという作業は、事業計画全体を作成し、必要な資金を具体的に見積もるための、非常に重要な「はじめの一歩」となります。
この次には、どのように売上を立てるか(販売戦略)、いつ頃どれくらいの売上を見込めるか(売上計画)、毎月どれくらいの費用がかかるか(費用計画)、そしてそれらを踏まえて資金がどのように流れるか(資金繰り計画)といった、さらに具体的な計画を立てていくことになります。
事業計画と資金計画は常に連動しています。あなたが立てた事業計画を実現するために、いつ、どれくらいの資金が必要になるのか。そして、資金計画が現実的であるかどうかが、事業計画自体の実現可能性にも影響します。
まとめ
初めての事業計画書作成は、難しく感じるかもしれませんが、まずはこの記事でご紹介した「事業コンセプトの明確化」「提供する商品・サービス内容の具体化」「初期費用の洗い出し」という最初の3つのステップから始めてみてください。
白紙に向かうのではなく、これらの問いに一つずつ答えて書き出していくことで、あなたのアイデアが整理され、事業の輪郭が見えてくるはずです。そして、初期費用を具体的に考えることで、必要な資金の全体像が見え始め、次の具体的な行動(例えば、自己資金をいくら貯めるか、どの資金調達方法を検討するかなど)が見えてきます。
最初の一歩を踏み出すことが、すべての始まりです。完璧を目指さず、まずはあなたの「やりたいこと」を具体的な言葉と数字に落とし込んでみることから始めてみましょう。このプロセスを通じて、事業への自信も深まっていくはずです。