【計画倒れを防ぐ】資金調達を呼び込み、事業を軌道に乗せる事業計画の「動かし方」
起業や独立を目指す上で、「事業計画書を作りましょう」という話はよく耳にするかと思います。実際に時間や労力をかけて事業計画書を完成させた方もいらっしゃるでしょう。しかし、その事業計画書は、本当に資金調達を成功させ、あなたの事業を軌道に乗せるための「生きた計画」になっているでしょうか?
残念ながら、せっかく作った事業計画書が、資金調達の申請書類として提出しただけで終わってしまい、「絵に描いた餅」になってしまうケースも少なくありません。事業計画書は、作成すること自体が目的ではなく、資金調達を成功させ、さらに事業を継続的に成長させるための「羅針盤」として活用することが重要です。
この記事では、完成させた事業計画書を資金調達の場で効果的に活用し、さらに事業を軌道に乗せるためにどのように「動かしていく」べきか、具体的なステップとポイントを解説します。
なぜ事業計画を「動かす」必要があるのか?資金調達担当者が見るポイント
事業計画書は、あなたの事業の将来像、実現可能性、収益性などを具体的に示すためのものです。資金調達を検討する金融機関や投資家は、この計画書を通じてあなたの事業を評価し、融資や投資の判断を行います。
資金調達の担当者は、単に書かれた内容だけでなく、あなたがその計画をどれだけ深く理解し、現実的に実行できるかを重視します。つまり、事業計画が単なる机上の空論ではなく、あなたの頭の中で具体的に描けており、それに基づいて行動する準備ができているかを見ています。
計画を「動かす」準備ができていることは、担当者に対して以下の点をアピールできます。
- 事業への本気度と深い理解: 計画の細部まで理解し、質問に淀みなく答えられることは、事業への情熱と準備の証です。
- 実現可能性: 数値目標の根拠や具体的な行動計画が明確であれば、計画の実現可能性が高いと判断されます。
- リスク管理能力: 想定されるリスクとその対策について計画的に考えられていることは、経営者としての冷静さや対応能力を示します。
- 計画遂行能力: 計画を定期的に見直し、改善していく姿勢があることは、事業を継続的に成長させるポテンシャルを期待させます。
事業計画を「動かす」前提で作られた計画、そしてそれを明確に伝えられる準備が、資金調達の成功確率を高めるのです。
資金調達を成功させる事業計画の「見せ方・伝え方」
せっかく練り上げた事業計画も、その魅力や実現可能性が資金調達担当者に伝わらなければ意味がありません。効果的な「見せ方・伝え方」のポイントをご紹介します。
1. 簡潔さと分かりやすさを心がける
事業計画書は何十ページもある必要はありません。重要なのは、事業の核となるアイデア、ターゲット顧客、競合との差別化、具体的な収益モデル、資金使途、返済・投資回収の見込みが、担当者に短時間で理解できるよう簡潔にまとめられていることです。専門用語は避け、平易な言葉で説明しましょう。図やグラフを効果的に使うことも有効です。
2. 数値目標には具体的な根拠を示す
売上目標、経費計画、利益予測などの数値には、必ず具体的な根拠を添えましょう。市場調査の結果、想定顧客数、単価設定の理由、仕入れコストの積算など、どのようにその数字が算出されたのかを明確に説明することで、計画の信頼性が増します。
3. 面談で計画への深い理解と熱意を示す
事業計画書提出後に行われることが多い面談は、あなたの言葉で計画を伝える絶好の機会です。計画書の内容を丸暗記するのではなく、自分の言葉で事業への想いやビジョン、計画のポイントを語りましょう。担当者からの質問には、計画に基づいて論理的に、そして熱意を持って答えることが重要です。想定される質問への回答を事前に準備しておくと良いでしょう。
4. リスクと対策にも具体的に言及する
どんな事業にもリスクは存在します。市場の変化、競合の動向、法規制の変更、予期せぬトラブルなど、想定されるリスクを正直に伝え、それに対してどのような対策を考えているのかを具体的に説明することで、担当者はあなたの経営に対する誠実さや危機管理能力を評価します。
事業を軌道に乗せるための事業計画の「動かし方」とPDCA
資金調達が成功し、いよいよ事業がスタートした後も、事業計画の役割は終わりません。むしろここからが、計画を「動かす」本番です。事業を継続的に成長させるためには、事業計画を「生き物」として扱い、定期的に見直し、改善していくプロセスが必要です。そこで役立つのが、PDCAサイクルです。
PDCAサイクルとは?
PDCAとは、以下の4つのステップを繰り返すことで、業務や計画を継続的に改善していく手法です。
- P (Plan - 計画): 目標を設定し、達成のための計画を立てる。
- D (Do - 実行): 計画に基づいて行動する。
- C (Check - 評価): 実行結果を分析し、計画通りに進んでいるか、目標は達成できているかを評価する。
- A (Action - 改善): 評価結果に基づき、計画や行動の改善策を講じる。
これを事業計画に当てはめてみましょう。
事業計画におけるPDCAサイクルの回し方
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P (Plan): 計画の目標と戦略を再確認
- 作成した事業計画書に立ち返り、短期・中期・長期の目標、それを達成するための具体的な戦略や行動計画を再確認します。
- 特に、資金調達時に約束したことや、計画書に盛り込んだ重要な施策をリストアップします。
- 具体的な数値目標(売上目標、顧客獲得数、経費目標など)を、測定可能な指標(KPI: Key Performance Indicator)として明確にしておきます。
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D (Do): 計画に基づき行動する
- 設定した目標達成に向け、日々の業務や計画された施策を実行します。
- 例えば、「ウェブサイトからの問い合わせ数を月間〇件にする」という計画があれば、そのために必要な施策(SEO対策、広告出稿、コンテンツ作成など)を実行します。
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C (Check): 定期的に進捗・成果を評価する
- 月に一度、四半期に一度など、定期的に時間を設けて、事業の進捗状況、計画で定めたKPIの達成度合い、売上や経費の状況などを確認・評価します。
- 計画と実績にズレがないか、ズレがある場合はその原因は何かを分析します。例えば、売上が計画より低い場合は、顧客獲得が想定通りに進んでいないのか、単価が低いのか、競合の影響かなどを深掘りします。
- 資金繰り計画との連動: 資金繰り表を作成し、資金の出入りが計画通りか、予期せぬ大きな支出はないかなども同時に確認します。
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A (Action): 計画や行動を修正・改善する
- Checkで明らかになった計画と実績のズレや課題に基づき、今後の計画や行動を見直します。
- 計画自体に無理があったのか、実行方法に問題があったのか、外部環境の変化があったのかなどを踏まえ、必要に応じて目標数値、戦略、具体的な施策などを修正します。
- この「修正」こそが、事業計画を「生き物」として進化させていく重要なステップです。計画は固定されたものではなく、常に最適化していくものだと捉えましょう。
このPDCAサイクルを継続的に回すことで、事業計画は単なる「書類」から、あなたの事業を成功に導くための強力な「ツール」へと変わります。
計画を実行する上で直面しやすい課題と対策
事業計画通りに全てが進むことは稀です。計画を実行する上で直面しやすい課題と、それに対する対策を考えてみましょう。
課題1:計画通りに売上が上がらない・経費がかさむ
- 対策:
- 原因分析: なぜ計画通りにいかないのか、具体的な原因を徹底的に分析します(例:ターゲット設定ミス、集客方法が ineffective、価格設定の問題、想定外のコスト増など)。
- 計画修正: 原因に基づき、売上目標や経費計画、そしてそれを達成するための具体的な施策を見直します。柔軟な対応が重要です。
- 資金繰り確認: 資金ショートの危険がないか、資金繰り計画をこまめに確認し、必要であれば追加の資金調達などを検討します。
課題2:モチベーションが維持できない・計画の実行が滞る
- 対策:
- 目標の細分化: 大きな目標を達成可能な小さなステップに分け、一つずつクリアしていくことで達成感を得やすくします。
- 定期的な振り返り: 定期的に計画と実績を確認する場を設け、成果を共有したり、課題を話し合ったりすることで、計画実行への意識を高く保ちます。
- 外部の視点を取り入れる: 相談相手(専門家、メンター、起業仲間など)を持つことで、客観的なアドバイスや励ましを得ることができます。
課題3:外部環境の変化に対応できない
- 対策:
- 情報収集: 常に業界や市場の動向、競合の動き、法規制の変更など、外部環境に関する情報収集を怠らないようにします。
- 計画の柔軟性: 事業計画は、外部環境の変化に合わせて修正できるように、ある程度の柔軟性を持たせておくことが望ましいです。PDCAサイクルのActionステップで、計画自体を修正することを躊躇しない姿勢が大切です。
まとめ:事業計画をあなたの強力なパートナーに
事業計画は、起業・独立における資金調達において極めて重要な役割を果たしますが、その価値は資金調達の場面だけに留まりません。事業計画を「作って終わり」にするのではなく、資金調達の成功と、その後の事業を継続的に成長させるための「羅針盤」として活用し、「動かしていく」ことが何よりも重要です。
資金調達担当者に計画への深い理解と熱意を伝えるための「見せ方・伝え方」をマスターし、事業開始後はPDCAサイクルを愚直に回しながら、計画を常に最新の状態にアップデートしていくこと。これが、事業計画を「絵に描いた餅」にせず、あなたの起業・独立の道のりを力強くサポートしてくれる「強力なパートナー」にするための鍵となります。
ぜひ、完成した事業計画書を棚にしまうのではなく、あなたの事業を成功に導くために、今日から「動かす」ことを始めてみてください。